自分、という命が産まれ出た日に
他人、という命が沢山消えていった。

怨み、悲しみ、怒り、憎しみ

数え切れない程のとてもとても嫌なモノが自分目掛けて襲ってくるのが何故だか判る。

辛い、苦しい、悲しい

何故自分が襲われるのか
何故自分に向けられるのか
何故、何故、何故……―――――

そうして「嫌だ」と「止めろ」とその瞬間、それらは皆消えてしまった。


消して…しまった?






己を知り理解して沈黙する






一年の内毎年決まってこの日、木の葉と呼ばれるこの里は一種独特の空気となる。
自分に向けられるあの嫌なモノがピン、と張り詰めた糸の様に弛む事無く一つの直線を描く。

その消失点は自分だといつか誰かに聞かされた。
その誰か、も手を出し足を出し最後に口を出していた気がするけれど逐一覚えていられない。
だってそれらを例えると、朝になれば太陽が東から昇る事と同じ位変わらない日常にある一つの事柄なのだから。


この里で唯一嫌悪でも無関心でもない「哀れみ」の感情を自分に向ける火影と呼ばれる里長が
その感情を払拭させる為だけに誂えられたこの部屋で、今日この日も変わらず自分は本を読む。


何者にも平等で偽りのない不変の『知識』は自分がいるこの世界で唯一価値のあるモノだと思う。
だからこそこの歪な空間で知識を得る事は自分が生きている中で只一つ意味を持つ。

それに比べてこの里長はよく意味の為さない事を繰り返すものだ。
自分に「教え育てる」という教育と言う事を目的とした人間を宛がおうとする。

それは自分に対して負の感情しか持ち合わせていない人間なのに。

最初の人間は一日、もたなかった。
「化物」と、この言葉を教えて去った。
次の人間は二日、もたなかったと思う。
「死ね」と、この言葉を教えて去った。
次の次の人間は…
あぁ、この辺りから既に覚えてはいない。

彼ら「教え育てる」目的を担った人間たちは自分にそれら言葉と言葉の意味と
そして侮蔑の情を教えるだけだった。



そうして何人来たのだろうか?
数える事も覚える事も放棄した頃里長はこの歪な空間と「すまない」という言葉を自分に授けた。


何が「すまない」なのか?
何に対しての「すまない」なのか?

それらの事と今まで抱いてきた様々な疑問はこの歪な空間の価値ある知識が教えてくれた。



あの消えて、消してしまった、その過去も
自分が、何故、なのかも


全て全て価値ある知識が不変の事実を教え与えてくれた。







だから自分は欲してはいけない。
だから自分は望んではいけない。
だから自分は言ってはいけないのだ。






遠く遠く、唯一この歪な部屋に繋がる道を誰かが歩いて近づいてくる音が聞こえる。

一人…
二人……?


それは恐らく里長と例の目的を担った人間だろう。
あぁ、また、同じ事が繰り返されるだけの事なのに。






そして。また、自分は学ぶのか。



欲してはいけない。
望んではいけない。
言ってはいけないのだと。

以下反転でss微解説

対人間スレナル一人称
時間軸としては鹿に出会う直前をイメージしました。
……こんな達観しきった子供は嫌だ……
ちょっとナルの寡黙設定に複線はってみたけど複線になってないのが痛いです。
いやによく喋る鳴なのでとても別人臭いトコロはご愛嬌(ニコ
[PR]動画